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木柵鉄観音

 台湾でも唯一、台北縣木柵區出しか生産されないお茶で、専門的には『球型包種茶(きゅうけいほうしゅちゃ)と呼ばれてています。

 ちなみに『包種茶
(ほうしゅちゃ)という呼び名は「半発酵茶」全体を指しますが外形により更に分化してゆき、凍頂烏龍茶や高山烏龍茶などをはじめ一般的に広く烏龍茶と呼ばれているものは『半球型包種茶(はんきゅうけいほうしゅちゃ)と呼ばれ、台北縣坪林(ピンリン)一帯で生産され一般的に「包種茶」(文山包種)と呼ばれているものは『條型包種茶(じょうけいほうしゅちゃ)と呼ばれています。其の中で唯一『球形包種茶』と呼ばれているものは木柵區で生産される「木柵鉄観音」だけなのです。

 一般に「鉄観音茶」は『鉄観音製法
(てつかんのんせいほう)で作られたお茶全般を指します。例えば「翠玉」(すいぎょく)・「四季春」(しきしゅん)などの茶葉が原料であっても『鉄観音製法』で作られたなら「鉄観音茶」として市場に出てきます。それらと区別する為に『鉄観音茶葉』を『鉄観音製法』で製茶した「鉄観音茶」のことを『正叢鉄観音(せいそうてつかんのん)と呼んで区別しています。

 現在台湾内で、鉄観音茶葉は木柵區でしか栽培されていないので『正叢鉄観音』は自動的に木柵の地名を冠にとって『木柵正叢鉄観音』と呼ばれていますが鉄観音の茶樹は環境適応能力が弱く生産性が低いために希少な茶種で一般の「鉄観音茶」とは比べ物にならない値がつきます。しかし、『木柵正叢鉄観音』だけがもつ通称「観音韻
(かんのんいん)とも呼ばれるニッキと蜜の合わさった様な濃厚で甘い香りと、ほのかに酸味を帯びる味わいは茶の味を知る人々を魅了し続けているのです。

 さて、その『木柵正叢鉄観音』の起源ですが意外に新しく、約200年前に福建省の安溪から『』という姓の一家が「樟湖山」(現在の指南里猫空一帯)に入植しました。その後1919年に張迺妙
(ちょうないみょう)張迺乾(ちょうないかん)兄弟が安溪から鉄観音の株一千本を台湾に持ち帰ったのが現在の『木柵正叢鉄観音』の始まりであると言われています。

 では、『鉄観音製法』とはどの様な製茶方法なのか?簡単に説明すると下記の様な作業の流れです。

1日目 茶摘をした当日は発酵させつつ夜を待ち釜入り「殺青
(サーチン)し、続いて茶葉を布で包んで揉み込む作業「布揉(プーロゥ)を行いつつ2日目に突入。

2日目 炭火で焙煎する「炭火焙
(タンホウペイ)と、布で茶葉を包みきつく絞りつつ揉み込むことで茶葉を球形に整形していく「球團揉(チョウタンロウ)を繰り返す。

日目 「炭火焙」と「球團揉」を繰り返し、3日目にして乾燥させれば製品となる前の「毛茶
(マオチャ)が出来上がります。(この後、揉み込みにより離散した茎を取り除く『検枝』、その後『火焙』を経て完成する)

 私も何回か製茶作業に立ち会った事が有りますが、一般の製茶工程の2〜3倍の時間と手間がかかっていると言えるでしょう。まさに、技術を超えた情熱が無いと成し得ない作業だと痛感させられます。

 正叢の『叢』は正しくは『木』辺に叢、[木叢]と書きます。

2003年春に張福欽の茶園で撮影した鉄観音の茶葉です。
上質な鉄観音の茶葉は縁が美しく波打っています。写真ではちょっと解りづらいかもしれませんね。
実はこの鉄観音茶葉は生で食べてもほんのり甘い風味が現れます。これが『鉄観音製法』によってあの甘く濃厚な香りになるのでしょう。

                
茶葉にお湯を注ぐだけで『熟果香』とも言われる濃厚な香り『観音韻』があたりに漂います。
口に含めば『正叢鉄観音』でしか味わえない豊かな味わいとほのかな「酸味」が舌の上に広がるので其れをゆっくりと味わいながらじっくりと楽しんでもらいたいお茶です。間違ってもダイエット茶なんかと同じ様に飲まない事!バチが当たっちゃいますよ(笑)

 近年、喫茶習慣の大衆化に伴い初心者でも美味さを感じやすい高山茶が大ブームを呼ぶ中、木柵鉄観音の様なある意味クセの強いお茶はますます影が薄くなっています。日本国内だけではなく台湾でも心無い茶商から「鉄観音はお年寄りの飲むお茶」・「今では殆どの人が高山茶を飲んでいる」などと頭痛がするような話を聞かされる事が多々有りますがはっきり言って間違っています。

 お年寄りが鉄観音を好むのも長年の喫茶習慣で培われた味覚で自分の好きな鉄観音を愛飲しているだけだろうし、喫茶を始めて間もない若い人たちにのなかにも鉄観音を愛飲している方はたくさんいます。茶商はただただ流行に迎合しているようなお茶の売り方では駄目だと思うのです。

 お茶を求めるお客様にとっては日本にいながら様々なお茶を手に入れる事が出来る環境が整ってきました。一時の流行なんて気に留めず、ご自分が選んだ茶葉を自信を持ってご愛飲下さい。いつかきっと自分が待っていた茶葉との素晴らしい出会いがあるはずです。

参考 陳煥堂・林世U著 『台湾茶』
    行政院農業委員會茶業改良場編印 『茶業技術推廣手冊・製茶技術』





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